🔢 世界の数え方入門:なぜ私たちの「十進法」は珍しいのか?
私たちが日常で使う数字の数え方は、極めて合理的です。
「70(ななじゅう)」は 7 × 10、「80(はちじゅう)」は 8 × 10 のように、10を単位として数え上げていく方法です。これを**「十進法(10進法)」**と呼びます。
しかし、世界にはこの十進法を採用していない言語、あるいは十進法と別の数え方を混ぜている言語がいくつも存在します。彼らは数字を数える際に、**なぜか簡単な「計算」**を必要とします。
その計算の基準となるのが、**「二十進法(20進法)」**です。これは、10ではなく「20」を一つの大きなまとまりとして数えるシステムです。
本記事では、この二十進法の影響が強く残り、現代でも現役で使われているフランス語、バスク語、デンマーク語の数え方を、具体的な例と計算式で徹底的に「わかりやすく」解説します。
🇫🇷 【基礎編】フランス語の「計算する数え方」を徹底解説
世界の独特な数え方を知る上で、最も有名で、多くの人を驚かせるのがフランス語です。
フランス語は、69までは十進法と似た構造で進みますが、70以降になると突然、複雑な計算式が登場します。これは、古代のフランス地方で使われていた二十進法と、ローマ文明由来の十進法が混ざり合った名残です。
🔢 衝撃!フランス語の数え方:70、80、90のルール
フランス語の数詞は、特に70、80、90が独特で、日本人には「なぜこんなに面倒に?」と感じられます。
| 数字 | フランス語での読み方 | 直訳(計算式) | 解説(言葉の意味) |
| 70 | soixante-dix | 60 + 10 | 「60(ソワサント)」に「10(ディス)」を足す |
| 80 | quatre-vingts | 4 × 20 | 「4(キャトル)」を「20(ヴァン)」に掛ける |
| 90 | quatre-vingt-dix | (4 × 20) + 10 | 「80」に「10」を足す |
このシステムにより、フランス語圏では「80」という単語を覚えるのではなく、「80 = 4 × 20」という計算プロセスを言葉自体に含ませて覚えることになります。
例えば、**「97」**を数える場合、フランス語の単語は以下の計算を意味しています。
quatre-vingt-dix-sept
(4 × 20) + 10 + 7
数字を一つ言うたびに、頭の中で四則演算を挟む必要があるわけです。もちろん、ネイティブスピーカーはこれを一つの言葉として無意識に使いますが、その成り立ちは非常に複雑です。
💡 逸話:フランス語圏内での数え方の違い
実は、フランス語圏でもスイスやベルギーの一部では、この計算式を使わない純粋十進法の数え方が使われることがあります。
- 70: septante(セプタント)
- 90: nonante(ノナント)
これらの地域では、「70」や「90」の単語が独立しているため、フランス本土よりも合理的な数え方だと認識されています。この違いは、言語が文化や歴史的な影響を受けながらも、地域によって異なる進化を遂げた面白い事例です。
🇪🇸 【深掘り】バスク語の徹底された二十進法とその由来
フランス語が部分的に二十進法を採用しているのに対し、スペインとフランスの国境にあるバスク地方で話されているバスク語(Euskara)は、100近くまで完全に二十進法を採用しています。
バスク語は、ヨーロッパの他の言語とは起源が異なる「孤立した言語」であるため、数字の数え方にも古代から続く独自の文化的なルーツが色濃く残っています。
🔢 バスク語の「20のまとまり」を基にした数え方
バスク語では、20(hogei)を一つのまとまりとして、その倍数を基本の数詞とします。
| 数字 | バスク語での読み方 | 直訳(計算式) | 解説(言葉の意味) |
| 40 | berrogei | 2 × 20 | 「二つの20」 |
| 60 | hirurogei | 3 × 20 | 「三つの20」 |
| 80 | laurogei | 4 × 20 | 「四つの20」 |
| 90 | laurogeita hamar | (4 × 20) + 10 | 「四つの20」と「10」 |
そして、この基本の数詞に、1から19の数を組み合わせて数えます。
例えば、**「65」**を数える場合は以下のようになります。
hirurogeita bost
(3 × 20) + 5
フランス語よりも一貫しており、「いくつ20があるか」を表現するルールが徹底されているのが特徴です。バスク語圏の日常生活では、この二十進法の数え方が完全に主流として使用されています。
🇩🇰 【超難解】デンマーク語の分数・計算式のような数え方
フランス語やバスク語の数え方は計算すれば理解できますが、世界で最も習得が難しいと言われる数え方の一つが、デンマーク語のシステムです。
デンマーク語は、20を基本単位としながら、さらに**「半分(halv-)」という言葉を組み込み、まるで分数や複雑な計算**をしているかのような数詞を作ります。
🔢 デンマーク語の「半分を引く」複雑なルール
デンマーク語の数え方は、50以降で複雑化し、特に20の倍数を表す「-sindstyve」という接尾辞と、「半分」を意味する「halv-」を組み合わせて以下のように表現します。
| 数字 | デンマーク語(音訳) | 複雑な直訳 | 意味合いの解読 |
| 50 | halvtreds | (3 × 20) から 10 を引いたもの | 「3番目の20の半分を引いた」 |
| 70 | halvfjerds | (4 × 20) から 10 を引いたもの | 「4番目の20の半分を引いた」 |
| 90 | halvfems | (5 × 20) から 10 を引いたもの | 「5番目の20の半分を引いた」 |
ポイント: デンマーク語のこの数え方は、厳密には「その次の20の倍数から10を引く」という意味合いを持っています。
- 例えば「70」の場合、次の20の倍数である80(4 × 20)から、その半分である10を引くという考え方です。
- 70 = 80 – 10
この「半分を引く」というルールが、デンマーク語の数詞を特に難解にしている要因です。デンマークの子供たちも、この50以降の数え方を覚えるのに苦労するという逸話があります。
💡 なぜ「20」が基本なのか?人類の歴史と二十進法の起源
フランス語、バスク語、デンマーク語という異なる言語に、共通して「20」を基本とする二十進法の影響が見られるのは、偶然ではありません。
その起源は、現代の私たちが考える「数学」の概念が生まれる、はるか昔に遡ります。
👣 身体を使った数え方:「手と足の指」
最も有力な説は、初期の人類が数を数える際に使った道具、つまり自分の身体に由来するというものです。
- 十進法(10を基本): 両手の指(10本)で数を数える。
- 二十進法(20を基本): 両手の指(10本)に加え、**両足の指(10本)**も使って数を数え、合計20本で一つのまとまりとした。

この「手足の指すべて」を数えるシステムが、古代文明や、外部との接触が少なかった孤立した文化圏(バスク語圏など)に残ったと考えられています。
🗿 古代文明での採用事例
二十進法は、単にヨーロッパの一部に残る古い遺産ではありません。かつて高度な文明を築いた地域でも、主流の数え方でした。
| 文明・言語 | 主な採用分野 | 特徴 |
| マヤ文明 | 暦の計算、天文学 | 純粋な二十進法を高度な数学に応用していた。 |
| アステカ(ナワトル語) | 納税、商業 | 二十進法を基盤として、物資の管理に利用した。 |
これらの古代文明においても、「20」を一つの区切りとするシステムは、実用的な数え方として機能していたことがわかります。
🌍 なぜフランス語にだけ二十進法が残ったのか?
フランス語は、ヨーロッパの主流であるインド・ヨーロッパ語族に属しますが、古代フランス地方(ガリア)に住んでいたケルト系民族が使っていた二十進法の言葉が、ラテン語(十進法)が流入してきた後も強く残り、数詞に混ざり合ってしまったと考えられています。
特に、70, 80, 90といった「中間的な数」を数える際、伝統的な数え方の名残が消えずに残り、現代まで受け継がれてしまった、言語進化のユニークな痕跡だと言えるでしょう。
✅ まとめ:数字のルールは文化の鏡
本記事で見てきたように、数字の数え方は単なる数学的なルールではなく、その言語を話す人々の歴史、文化、そして世界の捉え方を映し出す鏡です。
| 数え方 | 特徴的な国・地域 | 構造のユニークさ |
| 純粋十進法 | 日本、中国など | 10を単位に、言葉が一貫している。 |
| 部分二十進法 | フランス語 | 4 × 20 のように、20と10を混ぜた計算が必要。 |
| 徹底二十進法 | バスク語 | 2 × 20 のように、20の倍数で数え方を統一。 |
| 分数二十進法 | デンマーク語 | 次の20の倍数から10を引くなど、分数的な考え方が必要。 |
私たちが「当たり前」だと思っていた「十進法」は、実は世界標準ではなかったのです。
次に海外の言葉で数字を聞いたときは、彼らがその数字をどのように組み立てて表現しているのか、その背景にある文化と歴史に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。


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