朝になると住宅街を走り回り、次々とごみ袋を収集車へ放り込んでいくごみ収集員。
「臭い」「汚い」「体力的にきつい」という、いわゆる3Kのイメージを持っている人も多いのではないでしょうか。
ところがネットでは、
「意外と仕事が早く終わる」
「残業が少なくて働きやすい」
「思っているよりいい仕事だった」
といった経験談も見かけます。
本当にそんなに働きやすい仕事なのでしょうか。
今回は、飲食店や企業などを回る「事業系ごみ」の収集ではなく、私たちが家庭から出す可燃ごみや不燃ごみ、資源ごみなどを定期的に回収する仕事を中心に、その実態を調べてみました。
すると「仕事が早く終わる」という噂には確かに根拠がある一方で、決して「楽な仕事」とはいえない、ごみ収集ならではの過酷な一面も見えてきました。
家庭ごみの収集員はどんな一日を送っている?
まずは、家庭ごみの収集員が普段どのような仕事をしているのか見てみましょう。
厚生労働省の職業情報サイト「job tag」によると、ごみ収集作業員は担当する地区やごみの種類ごとに班を組み、一般的には2~3人ほどで収集車に乗って決められたコースを回ります。
家庭から出されたごみを積み込むだけでなく、収集したごみを処理施設まで運搬したり、集積所周辺を清掃したり、収集車を清掃・管理したりすることも仕事に含まれます。
ごみを積んだら終わりではない
大阪市が公開している家庭ごみ収集職員のスケジュールを見ると、仕事の流れがよく分かります。
午前8時に出勤して朝礼や収集ルートの確認を行い、8時30分に出発。担当地区で家庭ごみを収集して工場へ搬入する作業を2~3回繰り返します。
昼休みを挟んで午後も同じように収集を行い、16時に帰庫。その後、作業報告や収集車の洗車、日誌作成を行って16時30分に退勤します。
つまり、
家庭ごみを収集 → 処理施設へ搬入 → 再び収集 → 帰庫 → 洗車や報告
というのが一つのパターンです。
街から収集車が見えなくなったからといって、その時点ですべての仕事が終わっているとは限りません。
「仕事が早く終わる」という噂は本当なのか
では、ネットでよく見かける「ごみ収集は仕事が早く終わる」という話は間違いなのでしょうか。
調べてみると、これは完全な噂というわけでもありませんでした。
実際、家庭ごみ収集の求人には「定時より早く終わることが多く、その場合はそのまま退社」と明記しているものがあります。
北海道江別市の一般家庭ごみ収集の求人では勤務時間が8時~15時で、「定時よりも早く終わることが多い」「その際はそのまま早上がり退社」とされています。
別の家庭ごみ収集の求人でも、本来の定時は16時30分ながら、業務が終われば15時~15時30分ごろに退勤でき、早上がりでも給与は変わらないという例があります。
さらに一般家庭の可燃・資源ごみを扱う求人では、「作業が終われば早上がり可能」「早く終わっても日給保証」といった条件も確認できます。
本当に早く帰れる家庭ごみ収集の職場は存在するのです。
「収集終了」と「退勤」は同じではない
ただし、ここが少しややこしいところです。
「仕事が早く終わる」という経験談でも、実際にはいくつかのパターンがあります。
収集だけ早く終わり、その後に洗車や日報を書く職場。
収集や後片付けまで終わり、定時まで待機する職場。
そして、担当業務が終われば本当に早く退勤できる職場。
大阪市のように16時まで収集する例もあれば、定時より早く帰れる民間企業もあります。
厚生労働省も、清掃事業には市区町村による直営と民間企業への委託があり、給与や労働条件は所属先によって異なると説明しています。一般的な勤務時間の目安は8時~16時30分ごろとされていますが、全国の収集員が同じスケジュールで働いているわけではありません。
そのためネットで、
「かなり早く終わった」
という人と、
「夕方まで普通に働いていた」
という人がいても、必ずしもどちらかが嘘とは限らないのです。
実際のごみ収集員の仕事を動画で見てみよう
文章だけでは分かりにくいので、実際の現場を見てみましょう。
この動画では、東京都羽村市で家庭ごみ収集を行う民間業者の仕事に密着しています。
出発前にはアルコールチェックと収集車の日常点検を実施。
午前中はドライバーと作業員が2人1組となり、一般家庭を一軒ずつ回る戸別収集を行います。
実際の映像を見ると、収集員がどれだけ頻繁に車を乗り降りし、次々とごみを運んでいるのかがよく分かります。
この会社では家庭ごみの収集後にも仕事がある
動画では午前の家庭ごみ収集が終わったあと、午後から別の現場へ向かい、集合住宅などに残された家財や大量のごみを撤去する作業も行っています。
ただし、ここは注意が必要です。
これは家庭ごみの定期収集そのものではなく、この会社が家庭ごみ収集以外の廃棄物関連業務も手掛けているためです。
したがって「家庭ごみ収集員は午後になると残置物撤去をする」と一般化することはできません。
逆にいえば、自治体から家庭ごみ収集を委託されている民間企業でも、家庭ごみの収集が終わった後に別の仕事を担当する会社もあるという一例です。
「収集が終わったら何をするのか」は勤務先によってかなり違うようです。
ごみ収集員の給料は高いのか
「ごみ収集員は意外と高給」という話を聞いたことがある人もいるかもしれません。
しかし、現在の統計を見る限り、誰でも高収入を得られる仕事と考えるのは少し違いそうです。
厚生労働省job tagに掲載されている2025年の賃金構造基本統計調査では、ごみ収集作業員が属する職業分類の平均年収は398.6万円、月の労働時間は164時間となっています。
一方、2025年度のハローワーク求人賃金は全国平均で月22.7万円です。
ここで注意したいのは、398.6万円という数字は新人の初年度年収を意味するものではないことです。
また、この統計は「ごみ収集・し尿汲取作業員」などの職業分類に対応したもので、家庭ごみ収集員だけを完全に切り出した数字ではありません。
さらに直営の自治体職員なのか、委託された民間企業の社員なのかによっても待遇は変わります。
そのため、
「ごみ収集員=高給取り」
と一括りにするのは難しいでしょう。
ただし、入職時に特別な学歴や資格を必要としないケースが多いのも特徴です。厚生労働省も「特に学歴や資格は必要とされない」としており、普通自動車免許などを求められる場合があると説明しています。
それでも「意外とホワイト」と言われる理由
給料だけを見ると「ものすごく高給」というわけではありません。
それでも「実はいい仕事なのでは」と言われる理由は、給与以外の働き方にありそうです。
残業が少なく早く帰れる職場もある
家庭ごみ収集では、担当ルートを回り終えれば早上がりできる職場が実際にあります。
最近の求人でも、「残業ほぼなし」「早上がり多数」「早く終わっても給与全額保証」を待遇として打ち出す家庭ごみ収集会社が確認できます。
これは一般的な会社員とはかなり違う特徴でしょう。
もちろん全国共通ではありませんが、仕事を効率よく終わらせることが早い退勤につながる職場が実在することは確かです。
仕事内容の区切りが分かりやすい
家庭ごみ収集は、決められた地区を回ってごみを回収し、処理施設へ運ぶという目的が明確な仕事です。
厚生労働省の説明でも、地区とごみの種類ごとに班を組み、コースに従って収集する形が基本とされています。
営業成績を競うような仕事とは性質が異なり、その日の担当業務が終われば仕事の区切りがはっきりしている点を魅力と感じる人もいるでしょう。
社会からなくなりにくい仕事
そして何より、家庭からごみが出る限り収集は必要です。
華やかな仕事ではありませんが、街の衛生を維持するためには欠かせない仕事です。
「社会に必要とされ続ける仕事」という意味では、大きな強みがあります。
ただし「楽な仕事」と思ったら大間違い
ここまで読むと、
「早く帰れる職場もあって、給料も極端に悪いわけではない。それなら結構いい仕事なのでは?」
と思うかもしれません。
ところが、勤務時間と仕事の楽さは別問題です。
厚生労働省によると、作業員1人が1日に扱うごみは収集車5~6台分に及ぶ場合があり、屋外での立ち仕事に加えて重量物も扱うため、一定の体力が必要とされています。
「早く終わる」代わりに仕事中はかなり動く
家庭ごみの収集では、
車から降りる
↓
ごみを持つ
↓
収集車へ投入する
↓
次の集積所へ移動
↓
また降りる
という作業を何度も繰り返します。
早く仕事が終わる職場があるからといって、のんびり作業しているわけではありません。
ごみ清掃員として長年働いているお笑いコンビ「マシンガンズ」の滝沢秀一さんも、初めて働いた際には仕事のハードさを甘く見ており、朝食が十分でなかったこともあって倒れそうになったと振り返っています。
また、ごみの種類や量によって作業時間が変わり、特に夏場のペットボトルは量が非常に多く、回収に時間がかかると語っています。
夏場はとにかく暑い
ごみ収集は屋外作業です。
真夏でも収集車から何度も乗り降りしながら、ごみを運び続けなければなりません。
滝沢さんは夏場の収集について、空調服なしでは仕事が難しいほどの暑さだったと紹介しています。
勤務時間が比較的短くても、その時間内の運動量や身体への負担はオフィスワークとはまったく違います。
臭い・汚れ・虫が苦手な人には厳しい
そして、ごみ収集ならではの問題が臭いや汚れです。
特に気温の高い時期には生ごみが腐敗しやすく、虫も発生します。
滝沢さんによると、夏場の収集ではごみ置き場でゴキブリやウジ虫を目にすることも珍しくないそうです。
こうした環境は「そのうち慣れる」という人もいるでしょう。
しかし、臭いや虫に強い抵抗がある人にとっては、給与や勤務時間以前に「どうしても無理」という仕事でもあります。
ごみ袋の中には危険なものが入っていることも
さらに怖いのが、外から中身が分からないことです。
家庭から出されるごみの中には、割れたガラスや竹串、刃物などが紛れ込むことがあります。
滝沢さんは実際に、袋を突き破って包丁が落ちてきたケースや、竹串が太ももに刺さった経験を紹介しています。
そして危険なのは刃物だけではありません。
リチウムイオン電池やスプレー缶などが不適切に捨てられると、収集車の中で火災が発生することがあります。
姫路市では実際にモバイルバッテリーやスプレー缶などが原因とみられる収集車火災が発生しており、「最悪の場合、収集作業員の人命にかかわる」と注意を呼びかけています。
ごみ収集員が経験した「ヤバいごみ」
ここまででも十分大変そうですが、経験者の話を調べると、ごみ収集ならではの強烈なエピソードが出てきます。
ごみ袋が破裂して「ごみ汁」を浴びる
パッカー車は投入されたごみを内部で圧縮します。
その際、ごみ袋が破裂して中の液体が飛び散ることがあります。
滝沢さんによると、正体不明の液体だけでなく、カレーやみそ汁などが飛び散り、ワカメや豆腐が顔にかかったことまであったそうです。
しかも収集途中ではすぐに身体を洗うことができず、消臭スプレーなどでしのぎながら作業を続けることになります。
「臭い仕事」という一言ではなかなか想像できない世界です。
夏のごみ置き場にはウジやゴキブリ
夏はハエが卵を産みやすいため、家庭ごみの周辺にウジが発生することがあります。
ゴキブリなどの虫に遭遇することもあります。
虫が苦手な人にとっては、この時点でかなり厳しい仕事かもしれません。
包丁や竹串が袋から飛び出す
家庭側では「袋に入れたから大丈夫」と思っていても、収集員はその袋を直接持ち上げます。
滝沢さんが紹介した例では、袋を持ち上げた際に包丁が袋を突き破って落下したほか、竹串が太ももに刺さったこともあったといいます。
これは単に「汚い」「臭い」という問題ではありません。
何が入っているか分からない袋を毎日大量に扱うこと自体がリスクなのです。
収集車そのものにも危険がある
パッカー車は大量のごみを圧縮できる非常に強力な機械です。
厚生労働省の労災事例には、圧縮式ごみ収集車への積み込み作業中、投入口内部の回転板に巻き込まれて死亡した事故も記録されています。
これは家庭ごみ収集員の日常的な事故率を示すデータではなく、個別の労災事例です。
それでも、ごみ収集が「袋を車に放り込むだけの単純作業」ではなく、強力な機械や大型車両を扱う仕事でもあることは分かります。
「早く終わる」ことだけで楽な仕事とは判断できない
ここまで調べてみると、ごみ収集員についてネット上で正反対の経験談が出てくる理由も見えてきます。
家庭ごみ収集の求人には、担当業務が早く終わればそのまま早上がりできる職場が実際に存在します。
一方、大阪市のように午後まで収集を続け、帰庫後に洗車や日誌を書いて定時に退勤する職場もあります。
さらに民間企業では、家庭ごみ収集後に会社の別業務を担当するケースもあります。
つまり、
「家庭ごみ収集員は○時に仕事が終わる」
と一律に語ること自体が難しいのです。
自治体直営なのか民間委託なのか、担当するごみの種類、収集量、地域、会社の業務内容などによって働き方は変わります。
結局、ごみ収集員はホワイトな仕事なのか
今回調べてみて分かったのは、「ごみ収集員=きつくて待遇も悪い仕事」というイメージも、「早く帰れて楽な仕事」というイメージも、どちらも一面的だということです。
厚生労働省の最新統計では、ごみ収集作業員が属する職業分類の平均年収は398.6万円。特別な学歴や資格を必要としないケースが多く、一般的な勤務時間も8時~16時30分ごろとされています。
そして実際に、家庭ごみの収集が早く終われば定時前に帰れる職場も存在します。
一方で、その仕事中は大量のごみを運び続ける肉体労働です。
夏の暑さ、生ごみの臭い、虫、ごみ汁、刃物などの危険物、収集車の火災や事故といった、ごみ収集ならではの厳しさもあります。
つまり、ごみ収集員は**「楽だからホワイト」な仕事ではありません。**
むしろ、
長時間残業のようなつらさが少ない職場がある代わりに、勤務時間中の肉体的・衛生的な負担が大きい仕事
と考えたほうが実態に近いでしょう。
「早く仕事が終わるなら最高」と感じる人もいれば、「どれだけ早く帰れても、ごみ汁や夏の暑さは無理」と感じる人もいるはずです。
一般的な会社員とは「仕事のきつさの種類」がかなり違う――。
それが、ごみ収集員が「意外とホワイト」と言われる一方で、誰にでも向いている仕事ではない理由なのかもしれません。


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