知ってる馬と違う!?揺れずに走る馬の歩法「側対歩」の驚異的なメカニズム

動物

馬が走る姿を思い浮かべてみてください。おそらく多くの人が、競馬のサラブレッドのような「タッタッタッ」という上下に激しく揺れる躍動的な姿を想像するでしょう。

しかし、世界にはその常識を根底から覆す「全く揺れない走り方」をする馬が存在します。冒頭の動画(動画1)をご覧ください。モンゴルの草原を駆ける馬の上で、乗り手が平然と食事をし、あろうことか眠りについている驚きの光景が映っています。

なぜこんなことが可能なのか? その秘密は、一般的な馬とは「体の設計図」が根本的に異なる**「側対歩(そくたいほ)」**という特殊な歩法に隠されています。今回は、競馬の常識とは真逆を行く、知られざる「神の馬」の正体に迫ります。

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常識を覆す!スピードスケートのような独自進化「側対歩」とは

私たちが普段目にする馬の多くは、**「斜対歩(しゃたいほ)」**という走り方を基本としています。これは、右前脚と左後脚、左前脚と右後脚というように、対角線上の脚をペアにして動かす方法です。

しかし、動画に登場する馬たちが使っている「側対歩」は、全く異なるメカニズムで動いています。

こちらの動画(動画2)では、斜対歩と側対歩の足の運びの違いがスロー映像で詳しく解説されています。

  • 脚の動き: 右側の前後の脚、左側の前後の脚をそれぞれセットにして動かします。
  • 重心の移動: 上下の揺れがほとんど発生せず、重心は左右にスライドするように移動します。
  • イメージ: その動きはまさに、スピードスケートの選手が氷上を滑るような感覚に近いと言われています。
  • 遺伝子の秘密: この走り方は「DMRT3」という遺伝子の変異によるもので、脊髄の神経回路そのものが普通の馬とは違う設計図になっています。

『みどりのマキバオー』の伝説!側対歩の申し子「ツァビデル」のリアリティ

30代〜40代の方なら、競馬漫画の金字塔『みどりのマキバオー』に登場したモンゴルの野生馬、ツァビデルを覚えているのではないでしょうか?

彼はまさにこの「側対歩」の使い手として描かれました。作中では、圧倒的な高回転ピッチで地面を削るように走り、主人公のマキバオーを絶望の淵に突き落としました。

  • 漫画での強さ: 側対歩は前後の脚がぶつかるリスクがないため、ピッチを極限まで上げても足がもつれないという強みがあります。
  • 現実との速度差: ただし、注意が必要なのは「現実の速度」です。漫画ではツァビデルは日本の一線級の馬と互角に走りますが、現実の側対歩は時速45km〜55km程度が限界とされています。
  • ギャロップの壁: 時速70kmを超える競馬の全力疾走「ギャロップ(襲歩)」に比べると、物理的な最高速度ではギャロップが勝ります。

ツァビデルが競馬で通用したのは、彼が「側対歩を極限まで速めた特殊個体」だったという漫画的ロマンが含まれています。しかし、その「効率的な加速」という点では科学的根拠に基づいた描写と言えるでしょう。

なぜ側対歩は「神」と言われたのか?歴史を動かした持続力

側対歩がそれほど優秀なら、なぜ現代の競馬や乗馬は斜対歩がメインなのでしょうか。そこには「速さの質」の違いがあります。

こちらの動画(動画3)では、馬の様々な歩法が紹介されていますが、全力疾走の迫力が伝わるはずです。

  • 移動の快適さ: 側対歩は上下動がないため、乗り手の疲労が劇的に少なくなります。
  • 軍事的なメリット: 揺れない馬の上では、移動しながら食事をし、地図を読み、さらには正確に弓を射る(騎射)ことが可能でした。
  • モンゴル軍の強さ: 敵が休息している間も、モンゴル軍は馬の上で生活しながら進軍し続けられたのです。これが世界帝国を築いた機動力の正体です。

徹底比較:巡航の側対歩 vs 爆発力の斜対歩

比較項目斜対歩 (Trot / 一般的)側対歩 (Pace / 特殊)
足の運び対角線上の脚を出す同じ側の前後脚を出す
旋回性能極めて高い(障害物回避に強い)苦手(急カーブでバランスを崩しやすい)
長距離特性乗り手が疲れやすい神レベルで疲れない
用途障害馬術・馬場馬術モンゴルの移動・長距離の旅

現代の競馬で「斜対歩(およびそこから移行するギャロップ)」が主流なのは、その高い運動能力と旋回性能があるからです。

馬以外の側対歩で生活する動物たち

実は馬以外にも、**「側対歩(そくたいほ)」**を基本の歩き方としている動物は意外と身近に存在します。

馬の場合は遺伝子の変異による「特殊能力」という側面が強いですが、他の動物たちにとっては、その巨体や体の構造上、**「そう歩かないと足がぶつかってしまう」**という切実な理由がある場合が多いです。

主な動物をご紹介します。

1. キリン(巨体の衝突回避)

キリンは常に側対歩で歩きます。

  • 理由: 足があまりにも長いため、普通の動物のように対角線(斜対歩)で足を出すと、前脚と後ろ脚が空中でぶつかってしまうからです。同じ側の脚を同時に動かすことで、長い足を絡ませずにスムーズに前進しています。

2. ラクダ(砂漠の省エネ移動)

ラクダも側対歩の代表格です。

  • 理由: 砂漠という過酷な環境で、長距離を少ないエネルギーで移動するために進化しました。左右の揺れを使いながら振り子のように足を出すことで、筋肉の消耗を抑えています。

3. ゾウ(重すぎる体重の分散)

ゾウも基本的には側対歩、あるいはそれに近い歩き方をします。

  • 理由: 数トンという巨体を支えるため、常に3本の足が地面についている必要があります。対角線で動かすよりも、片側ずつ動かす方が重心が安定し、巨大な関節への負担を分散できるためです。

4. 犬の一部(大型犬や特定の犬種)

ゴールデンレトリバーなどの大型犬や、オールド・イングリッシュ・シープドッグなどは、ゆっくり歩く時に側対歩(アンブル)になることがあります。

  • 理由: 疲れが溜まっている時や、リラックスしてエネルギーを節約したい時にこの歩法が出やすいと言われています。

結論:常識の裏側に隠れた「もう一つの進化」

私たちが競馬場で目にする馬たちは、言わば「100m走のアスリート」です。対して、動画にあるような側対歩の馬たちは「不眠不休のクロスカントリーランナー」と言えるでしょう。

「馬=激しく揺れるもの」という思い込みを捨てて改めて動画を見ると、彼らの足運びがいかに効率的で、静かな熱を帯びているかが伝わってきます。

もしあなたがどこかで馬に乗る機会があれば、ぜひ聞いてみてください。「この子は、側対歩ができる子ですか?」と。もしそうなら、あなたは歴史上の英雄たちが味わった「滑るような極上の乗り心地」を体験できるかもしれません。

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